「守備ができる」と「そのポジションで守れる」は同じか ― それぞれのポジションの違いから考える
要点サマリー
- 「守備ができる」ことと「そのポジション特有の判断を身につけている」ことは、別のものかもしれない
- 攻撃的MFと守備的MF、守備的MFとCB、SHとSBでは、守るエリアも判断する場面も違う
- ただし適応力には個人差がある。だから決めつけず、整理してみる
第1回のおさらい
- 第1回では、アジア大会のなでしこジャパンで、所属チームとは役割が大きく異なるポジションを任された3選手について書きました。
- その中で、「経験させること」と「経験を積ませること」は違うのではないか、と書きました。今回は、その考えのもとになっている私の見方を、できるだけ言葉にしてみます。
先に:これは「個人的な経験則」です
- 最初に断っておきます。
- これは私の経験則であり、検証された事実ではありません。
- 適応力には個人差があります。 複数のポジションを高いレベルでこなす選手は実際にいます。
- 過去の経験によって事情が変わる選手もいます。 第1回で触れた伊東選手は、その一例です。
- 守備の基本的な考え方には、ポジションをまたいで共通する部分もあるはずです。そこは否定しません。そのうえで、共通しない部分がどこにあるのかを考えたいのです。
ポジションによって、守備の役割は違う
- ここは一般論の章です。3選手の話は、あとで分けて書きます。
- 私の理解では、ポジションごとの守備の役割はおおよそ次のように整理できます。
ポジション 主な守備エリア 主な判断・役割 攻撃的MF 高い位置 相手CBやアンカーへのプレス、パスコースの限定 守備的MF CBの前のスペース 危険なスペースの管理、縦パスの予測とインターセプト、セカンドボールの回収、サイドへのスライド CB 最終ライン中央 相手CFとの対人守備、クロスへの対応、ラインの統率、味方のカバー、背後のスペースへの対応 SH サイド、中盤 相手SBの攻撃参加への対応、前線からのプレス、味方SBとの連携による挟み込み SB サイド、最終ライン 対面の相手との1対1、クロスを上げさせない対応、逆サイドにボールがある時の絞り、CBとの連携、ラインの統率
- どのポジションも「守備」をしていることは確かです。ただ、同じ言葉でくくれても、中身は同じではありません。
攻撃的MFと守備的MFの違い
- まず、中盤の前と後ろの違いです。攻撃的MFの守備は、高い位置で相手のCBやアンカーにプレッシャーをかけ、パスコースを限定することが中心になります。ボールを奪う位置が相手ゴールに近いため、主な役割は「前から追い込む」ことです。
- 一方、守備的MFになると、CBの前にある危険なスペースを管理することが加わります。縦パスを予測してインターセプトしたり、セカンドボールを回収したり、サイドへスライドしてSBをカバーしたりと、後ろに味方の最終ラインがある中で、自分の背後を意識した判断が増えてきます。
- 守備のベクトルが変わる、と言い換えることもできます。攻撃的MFは「前へ、相手を追う」守備が中心で、守備的MFは「後ろを意識しながら、相手の動きを読んで先に動く」守備が中心になります。
- そのため、攻撃的MFとして前線からの守備に慣れた選手でも、「守備ができるのだから、アンカーでも同じように対応できる」と単純には言えないのではないか、と私は考えています。
守備的MFとCBの違い
- 続いて、守備的MFとCBの違いです。どちらも「守備的なポジション」と呼ばれます。しかし、守備的MFはCBの前のスペースを管理し、相手の動きを予測して先に動く役割が中心になります。CBになると、ゴールにより近い位置で、相手CFとの対人や、背後のスペース、最終ラインの統率まで判断の対象が広がります。
- 守るエリアも、判断する場面も違います。そのため、守備的MFとして豊富な守備経験がある選手でも、「守備ができるのだからCBでも同じように対応できる」と単純には言えないのではないか、と私は考えています。
SHとSBの違い
- 次に、サイドです。SHとSBの違いも、同じ構造をしています。SHの守備は、前線から相手を追い、パスコースを制限することが中心です。SBになると、対面の相手との1対1、クロス対応、逆サイドにボールがある時の絞り、最終ラインとしての判断が加わります。
- 同じ「サイドの守備」でも、SHとSBでは役割も、判断する状況も違います。「サイドで守備をした経験がある」ことと、「SBとして継続的にプレーして、そのポジション特有の判断を身につけている」ことは、同じではないと考えています。
「プレーできる」と「続けて良いプレーができる」は別ではないか
- 要点:一度対応できたことと、安定してできることは、分けて考えたい。
- 普段と違うポジションでプレーすること自体に、意味がないとは思いません。新しい視点を得たり、本来のポジションでも相手や味方の動きが分かりやすくなったりする可能性はあります。
- ただ、ここで重要になるのが、第1回でも書いた「経験させること」と「経験を積ませること」の違いだと思います。
- 守備では、試合の中でさまざまな場面を繰り返し経験することで、「この状況では次に何が起こりやすいか」「相手がこう動いたら、自分はどこをカバーするか」が予測できるようになります。その予測が、守備の判断や位置取りにつながっていく。私はそう考えています。
- もしそうだとすると、そのポジションで試合を重ねた選手と、少ない試合数しか経験していない選手とでは、予測できる場面の数が違うはずです。一度対応できたことと、継続して良いプレーができることは、同じではないでしょう。
- そしてもう一点。代表で新しいポジションを経験させるなら、その後どこで経験を継続するのかという視点も要るはずです。代表での経験が所属チームで続くのか、代表の活動でまた同じポジションを任されるのか。この「経験の継続」まで含めて考えないと、ポジション変更が成長につながったかどうかは評価できないのではないか、と思います。
それでも、適応できる選手はいる
- 要点:適応の差がどこから来るのかは、私にも分からない。
- ここまで書いたことに対して、「優れた選手は短期間で適応できる」という反論は当然あるでしょう。私もそうした選手がいることは認めます。
- では、適応できる選手とそうでない選手の差は、どこから来るのでしょうか。私が考えた仮説は、次の4つです。
- 過去の経験: 以前そのポジションを経験している
- 元のポジションでの役割の近さ: 求められる判断が、もともと似ている
- 周囲との連携: 周りの選手とどれだけ意思疎通できるか
- 身体能力の高さ: 足の速さ、対人の強さ、ジャンプ力といった能力が高く、経験が少なくても、その能力で対応できてしまう
4つ目(身体能力の高さ)については、補足しておきます。身体能力で対応できる場面は、確かにあると思います。ただ、それが予測や判断の不足まで補えるのか、あるいは強度の高い相手でも通用するのかは、私にはまだ分かりません。ここは、私の考えを揺さぶる要素でもあります。
- ただ、これらは仮説にすぎません。「素質なのか、経験なのか」は、正直に言って分かりません。おそらく、その両方が混ざっているのでしょう。
- 第1回で触れた伊東選手は、過去にCBやSBでの出場経験があると伝えられています。その意味で、ほかの2人と同じ重さでは語れないという立場は変えません。経験のある選手が、そのポジションでの判断を取り戻しやすいという可能性は、十分にあるからです。
今大会で、この論点は見えるのか
- 要点:判断する材料が、まだ揃っていないのではないか。
- 守備の真価や判断の精度の違いは、相手から激しいプレッシャーや速い攻撃を受けたときに初めて浮き彫りになります。今回の大会のように日本が主導権を握る試合展開が多い場合、たとえポジション特有の守備判断に曖昧さがあったとしても失点などの結果として表面化しにくい側面があります。
- ここで、「課題が見えていないから問題ない」とも、「見えていないから心配だ」とも、私は言いたくありません。言えるのは、今の時点では、判断する材料が揃っていないということだけです。
- そのため、この回では3選手の個別の守備内容には踏み込みません。この記事で扱ったのは、あくまで一般論としての「ポジションと守備の関係」です。3選手の出来を評価する意図は、最初からありません。
おわりに
- 最初の問いに戻ります。
- 「守備ができる」ことと、「そのポジション特有の判断を身につけている」ことは、同じなのでしょうか。
- 私は、別のものだと考えています。ただ、その差がどこまで埋められるのかは、選手によって違うはずです。
- もうひとつ、自分自身への問いも残っています。私たちは、守備の「質」を、普段何で判断しているのでしょうか。失点の有無でしょうか。位置取りでしょうか。それとも、別のものでしょうか。この問いは、私自身も整理できていません。
- 次回は、代表活動後の3選手を追いながら、この問いを確かめていきます。
免責・補足
この記事について
- この記事は、公開されている情報と、筆者個人の観戦経験・見方にもとづく考察です。
- 選手の個人的な評価や、監督・関係者への批判を目的としたものではありません。論点は、起用の設計と、その後の継続性です。
- 監督やクラブの意図、協議の内容は、外部からは確認できません。記事中の推測は、あくまで筆者の仮説です。
- 守備やポジションに関する記述は、筆者の個人的な経験則を含みます。検証された事実ではなく、異なる見方があることを前提にしています。
- 記載内容に誤りがあった場合は、確認のうえ訂正します。お気づきの点があれば、コメントでお知らせください。
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